休日街へ出掛けて気付く。意識をしていなくても、いつもと同じ道をいつもと同じ順に辿り、何度も見た店をまた覗く。そして決まった店で食事をとり、いつものルートで帰路につく自分。

馴染みの場所は居心地がいいけれども、いつか感じていたような心が弾むような気持ち―気付かなかった物を発見した時や、初めての出会いの時の気分の高揚は、もうしばらく味わっていない。

そう感じる事があるのであれば、それは今自分がいる場所の居心地の良さに、好奇心を忘れてしまっているという事だ。そしてそれは変化―“成長”と言い換えてもいいかも知れない―を放棄したということに他ならない。

人の魅力とは、その瞬間の姿を切り取って語られるものではない。その人が過去・現在を踏まえて、この先どのように変わってゆくのか―未来に対するポテンシャルが、人を如何様にも魅力的に見せる。好奇心を失うとは、魅力を失うという事に等しい。






忘れかけていた好奇心を取り戻すきっかけは、本当に些細な事で十分だ。“いつもと違う”という感覚。今日は違う道を辿って見ようか。知らない店を覗いて見ようか。ドミノを倒すように、好奇心は連鎖するからだ。

例えばいつもと違う靴を履いてみること。それだけで、眠っていた好奇心は呼び起こされる。靴に導かれるままに、あえて見知らぬ街に迷い込むのもいいだろう。それが発見や出会いのプロローグになり得る。そして気分の高揚と共に、次の発見、次の出会いを渇望しながら、人は磨かれていくのだ。

スエードレザー(革の裏面に摩擦をかけ、細かく起毛したもの)は、そのきっかけにふさわしい。元々自然に包まれた空間にマッチする靴という発想で作られた靴はしかし、街の空気にも驚くほど馴染む。

忘れていた好奇心を思い起こさせるのみならず、街を歩きたいという衝動を抑えることが出来ない程、気分を高揚させる一足である。
 











ソールの周囲には、焼き鏝(こて)によって化粧が施されている。本底は周辺に溝を起こし、その部分を底縫いの糸が通り、縫い終わるとそれをかぶせて縫い目を隠す、ヒドゥン・チャネルと呼ばれる方法で取り付けられる。これは底面を美しく見せるための手法であるが、この靴ではさらに焼き鏝で化粧を施すことによって、溝を起こしたわずかな跡も目立たないようにされている。

トップリフトには手打ちによってパネル釘を打ち込み、ヒール内側(通称内あご)にはカットを施した。減りやすい踵部分には鍵裂きタイプのゴムを取り付けることで補強がなされている。







 

■Last(靴型):B-715

■Width(足幅):EE

■製法:グッドイヤーウェルト製法

■素材

 甲革:スエード
 腰裏ライニング:牛タンニンヌメ

■口周り:切放玉縁

■コバ仕上げ:平コバ

■ウェルト面仕上げ:目付け

■シャンク:布巻きスチールシャンク

■中物:練りコルク