そしてその色づけは、手によって施される。
革の状態で染めあげた革は、確かにムラがなく均一に染められ美しい。けれどもあえて手の仕事を一工程加えてまで手染めにこだわるのには理由がある。
ナチュラルカラーの靴に染料を何層にも重ねていくことで、均一に染められた革にはない立体感のある色彩が表れる。同じものが一つとしてない色彩は、靴というプロダクトの意味を、ただの履き物ではなく一種の芸術品の域にまで高める。
そして革の状態で色づけするのではなく、木型に釣り込み靴の形となった状態で手染めしていくのにも意味がある。
ムラは決してランダムに表れているのではなく、流れるように美しい方向性を持ったものとして革の表面に表れる。水彩画の色の中に筆の跡が感じられるように、手染めによって色づけされた靴の表面にはその流れるような仕事の跡がはっきりと残る。
靴が成形されてから色をのせていくという順序でなくてはいけないのは、その流れるようなムラ感の美しさにこだわるためだ。靴のアッパー(甲の部分)に用いられる革は、木型にあわせて釣り込む(靴の形に成形する)工程で強くひっぱられ伸ばされる。その伸び方は場所によって様々だ。
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つまり、平面の状態でいくら美しい流線のムラ感を表現しても、靴の形となった時にその美しさがそのまま保たれる可能性は皆無だ。だからこそ、“靴が成形されてから色づけをする”という順番でなくてはならない。この靴の美しさを表現するためならば、その工程にどれ程こだわっても、こだわりすぎということはない。
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