明治5年(1872年)創業。日本人のための靴を作り続けている、日本最古のシューメーカー
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スキンステッチとは
今回ご紹介する技術は、
スキンステッチとは何か
スキンステッチとは、“革の内部を手で縫い通す”縫製の技術を称します。
靴の製作において、革のパーツとパーツを繋ぎ合わせる時や、飾りとして施すときに縫製を行いますが、その時、革の表と裏を糸が貫通するのが一般的な縫製です。
これに対し 、スキンステッチは、一方から針を入れた後、その反対側へは針を貫通させず、革の内部のみを縫い通します。平面形状の革の上に美しい立体感を与える意匠。
今回は、スキンステッチの詳細について説明いたします。
“手”でなければできない理由
この意匠は機械では決して行うことはできません。
なぜなら、そこには機械には決して身につけることのできない、“経験”と“感覚”が必要となるからです。
良質な革の厚みはわずか数ミリ。そして素材によっては硬さやクセなど全て微細に異なるため、それらを一つ一つ確かめながら革の内部に均一な間隔で縫製を施すためには、長年磨き上げた指の感覚が不可欠になります。
革の内部の中心を、一切狂いなく縫い通さなければならない。なぜなら、ほんの数ミリでも僅かに縫製が深すぎたり浅すぎたりすると、縫製後の革を木型に釣り込む時に、ズレた部分に負担がかかり、革が裂けてしまうからです。
一度そのような状態になった革は靴の革として二度と用いることはできません。そのため、ほんの僅かなミスが、革の全体の構造を破綻させてしまう意匠なのです。
全ての美しさは最初で既に決まっている
誤解をしてはならないのは、この意匠の困難さは縫製自体にあるのではありません。
ある職人は言います。
「この意匠が美しく映えるか否かは、全て最初の“穴開け”で決まる。」
縫製を行う前に、その準備として縫製の目安となる部分に印を付けます。革は釣り込む時に多少伸びるため、その伸びの分を計算に入れて考慮にいれなければ、靴としての美しさは完成しません。 平面形状の革が、美しい立体の靴の形になった完成図を頭に描く必要があるということです。
印をつけた箇所に、職人が専用の道具を用いて一つずつ穴を開けていきます。僅かでも力を入れすぎると、針の刃が革を余計に切り裂いてしまうため、最大の注意を払わなくてはなりません。
しかし、それ以上に職人の神経を使わせるのは、“全て均一の間隔で穴あけが行われているか”ということ。
“均一な立体感”がもたらす感動
スキンステッチの美しさは、“均一な立体感”が施されているかどうかで決まります。そのためには、穴あけの時点で全ての穴が均一に施されていなければなりません。
予め開けた穴に糸を通すことによって、革に立体感が生まれます。立体感に差があると気づいても、縫製の時点で調整することは不可能。
重ねて言うが、革の厚みは僅か数ミリ。一度穴を通した箇所を、ずらして再度穴を開けようとしても、革が裂けて終わるだけです。
完璧な間隔で施されたスキンステッチは、どこを見ても均一な立体感が続き、ただただ美しい。
それは単に難しいから価値があるのではなく、それを目の当たりにしたときの我々の感動が、それに値する価値を見出すのです。
道具までも手で作る、職人の仕事
上右の図は、今回の撮影にて用いられた穴あけの針と、縫製の針。
職人おのおのが使い易いよう、針の針先の角度などは全て職人の感覚で調整されています。
針を高温に熱して、微細に針先の角度が調整されており、針は道具というよりは、手の延長線の感覚。そこには確かに人の血が通っています。