
今回ご紹介する技術は、


「矢筈(やはず)」とは何か
矢筈とは一般的に、矢の一端の弦にかける部分(矢尻の反対側)の事を指す名称です。しかし革靴において【矢筈】と言った時には、それは本底のコバ(革の断面)の仕上げの事を指します。
本底のコバを、その語源でもある矢の一端の弦にかける部分と同じように、三角形の尖った形に仕上げるスタイルが【矢筈】。
日本が発祥といわれている矢筈の仕上げによって、グッドイヤーウェルテッドにおいて特徴的な厚みのある本底(ソール)を、華奢でエレガントに見せる事ができます。
矢筈仕上げのためだけに作られた、専用のカッター

矢筈仕上げは、あまり頻繁に見られる仕上げ方法ではありません。なぜなら、鋭角に削り取る仕上げはただ平坦に削るのとは違い誤魔化しがきかず、高度な技術を必要とするからです。
そして当然、削るためのカッターも矢筈専用のものを用意する必要があります。写真は、矢筈のためだけの専用カッター。刃の形状を見て頂ければ、仕上がりのコバのスタイルも想像して頂けるでしょう。
高速回転するこのカッターにコバを押し当てて削ってゆく。鋭角の頂点が描く美しいラインを生み出すためには、上下のブレは僅かでも許されない。熟練の職人だからこそ任せられる仕上げなのです。
エレガンスにこだわった曲線

“矢筈仕上げ”と言って、くの字にコバを落としただけの単純な仕上げを施した靴をしばしば見かけますが、それでは矢筈仕上げの目的を十分に達成しているとは言えません。
少しでもエレガントに見せることこそ、矢筈仕上げを施す意味だと、大塚製靴は考えています。
OTSUKA M-5 の靴に施されている矢筈仕上げは、緩い曲線を描くように削りとられており、頂点の部分の角度が鋭角となりよりエレガントに見えるよう計算されています。
「意匠の一つ一つには必ず目的がある」という事を知らしめてくれる、職人の想いが込められた意匠です。