“不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず”
いつまでも変わらない不変のモノである“不易”を基本とする中で、その時代に応じて変化していく“流行”を取り入れることの大切さを説いた言葉ですが、大塚製靴の靴作りでもこの言葉は大切にしています。
フォーマルシーンに相応しいクラシックスタイルというのは、長い時間をかけて磨き上げられ答えは絞られてきています。では既に完成されているのであれば、もう何も入り込む余地がないかと言えば、そうとは限りません。
例えば、素材。肌理(きめ)の細かさ、艶、しっかりと足を包み込み支える堅牢さ、それでいて履き込むほどに馴染んでいく柔らかさ、・・・デザインが決まっていても、それだけでは表し切れない色気や気品というものが存在します。
例えば、シルエット。コバの仕上げ、ふまずのくびれ、ヒールカップのライン、アイレットの位置と個数、一つ違っただけで全く別の表情を見せてくれる、それがドレスシューズの醍醐味と言っても過言ではありません。
ドイツの老舗タンナーのこだわりが凝縮されて生まれた一つの革と、140年を越える時間の流れの中で積み重ねてきた日本人のための靴作りの経験と知識の邂逅。Shoe Manufactures [Otsuka] ワインハイマーシリーズは、そうした二つの歴史の巡り合わせが生む新しいハーモニーを楽しめるラインナップです。
150年の伝統を持つドイツの伝説的タンナー、カールフロイデンベルグ。かつて100以上のタンナーが切磋琢磨していたドイツの中で、最高クラスの品質は、原皮選び、なめし、染色、仕上げ、その全てにおいて徹底した管理によって支えられてきました。ワインハイマー社は、その技術と職人を引き継いで生まれたタンナーです。
技術は150年の歴史を持つ名門タンナーの経験と技を、革は皮革産業が盛んなヨーロッパの数多くある原皮の中でも品質の高いアルプス山脈で育った仔牛、さらにその中からも厳選して選ばれた原皮のみを使用することで、その高い品質を維持してきました。
今回紹介する『RG-2003』は、ワインハイマー社の150年の時を越えて継承された技術が生んだ素材に、140年以上の時をかけて日本人の足を見守り続けてきた大塚製靴の靴作りを融合させた一足。一人の人間の歴史を越える時間、それは幾多の人々に支えられてきた今に繋がる歴史の証明とも言えるのかもしれません。『RG-2003』はそんな歴史を持つブランドのコラボレーションから生まれました。
「素材の魅力を極限まで引き出すには…」
そんな問いかけに対する一つの答えとして提示されるのが、ホールカットというデザインです。 継ぎ目のないワンピースのアッパーは、一枚の革を贅沢に使用していることを意味すると共に、その革が傷のない最高の品質であることを証明しています。
一枚の革で継ぎ目なく仕立てるということは、作り手にとっても特別な意味を持ちます。一瞬の気の緩みも許されない集中力はもちろん、革を裁断する前の時点で最終的に完成した姿を明確に描き出す想像力が不可欠になります。その二つの能力が揃ってはじめて、美しいフォルムの一足が生まれるのです。
【ピッチドヒール】
ヒールは接地面に向かって断面積が小さくなるピッチドヒール仕様になっています。華奢なシルエットは、履く人のこだわりと繊細さを代弁してくれます。必要以上に自己主張しない、見る人が見れば気づく、そんな仕様ですが、そのほんの小さな差異の積み重ねが全体の印象を作り上げるため、気の抜けない部分です。
【矢筈(ヤハズ)仕上げ】
本底のエッジは、矢筈と呼ばれる仕上げが施されています。矢筈とは矢の一端の弦にかける部分の呼び名で、その形と同じように本底のエッジを三角形の尖った形に落として仕上げるのを矢筈仕上げと呼びます。厚みのあるソールを華奢でエレガントに見せることのできるこの仕上げは、元々日本発祥の技術と言われています。大塚製靴の矢筈は、単にくの字にエッジを落とすのではなく、緩い曲線を描くように削ることで先端の角度を鋭角にすることでよりエレガントに見えるようにした本来の矢筈仕上げになっています。
【ヒドゥン・チャンネル×半カラス】
本底は周辺に溝を起こし、その部分を底縫いの糸が通り、縫い終わるとそれをかぶせて縫い目を隠す、ヒドゥン・チャンネルと呼ばれる方法で取り付けられています。さらにソールの仕上げは、半カラス(土踏まずの部分を黒く着色する仕上げ)が施すことで、よりエレガントな仕上がりになっています。
■Last(靴型):B-1000
■Width(足幅):EE
■製法:グッドイヤーウェルト製法
■素材
甲革:ワインハイマー
■口周り:切放玉縁
■底仕上げ:半カラス
■コバ仕上げ:ヤハズコバ
■踵形状:ピッチドヒール
■カラー:ブラック、ダークブラウン